平成21年度分 大気環境科

論文の内容

数値解析による兵庫県内の光化学オキシダントの濃度分布及び季節変動要因の検討

坂本 美徳,平木 隆年(兵庫県環境研究センター),嶋寺 光,瀬戸 文久,近藤  明,Shrestha Kudan Lai(大阪大学大学院工学研究科)

大気環境学会誌,45(2),89-95(2010)

兵庫県では、常時監視測定局で光化学オキシダント(OX)濃度を測定しているが、測定局は瀬戸内海沿岸の都市域に集中しているため、県下全域の実態を把握できていない。そこで、本研究では兵庫県下のOXの空間分布を把握することを目的に、MM5/CMAQにより2008年を対象にOXの大部分であるオゾン(O3)濃度について数値解析を行った。平均O3濃度の計算値は5月が最も高濃度を示し、次いで7月、9月、12月の順であり、観測値と一致した。平均O3濃度は、5月、7月共に日本域以外からの越境汚染の影響を受けて10ppb以上高くなると考えられた。5月は日本海側から流入した気塊が兵庫県下全域を覆い、地域的に排出されたNOX(NO)によるO3の消失反応によりO3濃度の空間分布が生じていると考えられた。7月は越境汚染に加え到達した気塊の経路により地域汚染によるO3生成の影響を受けていると考えられた。

大気汚染常時監視結果からみる光化学オキシダント汚染の特徴と測定局の適正配置に関する課題

藍川 昌秀,坂本 美徳,池澤 正,平木 隆年(兵庫県環境研究センター),坂本 和暢(兵庫県環境管理局環境影響評価室),英保 次郎((財)ひょうご環境創造協会)

全国環境研会誌 34(2),19-26

大気の汚染の状況の常時監視に関しては2005年6月に環境省によりその事務の処理基準についての一部改正(以下、改正環境省事務処理基準という)が行われ、都道府県は常時監視のための望ましい測定局又は測定地点の数の水準を決定することが求められている。また、その上で、都道府県及び政令市は、その水準に基づき必要となる測定局又は測定地点の数を確保するとともに、それを適切に配置し、常時監視の実施に万全を期さなければならない。
現在、兵庫県でも改正環境省事務処理基準に基づく測定局の再配置を検討しているところであり、本研究では、光化学オキシダント(Ox)について監視項目の地域分布並びにこれまで測定・蓄積されてきたデータをもとに、測定局の適切な配置について考察を行った。

Characteristic seasonal variation of vertical air temperature profile in urban areas of Japan

藍川 昌秀,平木 隆年(兵庫県環境研究センター)

Meteorology and Atmospheric Physics 104, 95-102

神戸市がポートタワーで鉛直方向に異なる高さ(20 m, 60 m, 100 m)で測定している気温データを利用し、気温の鉛直分布を解析し、大気鉛直構造の季節変化を示した。夏期(6月~8月)の昼間に60-100 mの層に気温逆転層が形成されることが明らかとなった。気温逆転層は大気の上下方向の拡散を妨げる。このことから夏期の昼間に60-100 mの層に形成される気温逆転層は神戸・阪神地域の大気汚染にも関係していることが懸念されるものであった。一方、冬期(12月~2月)には夜間に20-60 mの層に気温逆転層が形成されており、夏期とは異なる特徴的な季節変化が明らかとなった。

Characterization of Chemical Species in Input and Input-Output Balance on Nitrogen in a Catchment Area of Japan

藍川 昌秀,梅本 諭,平木 隆年(兵庫県環境研究センター),駒井 幸雄(大阪工業大学),徳地 直子(京都大学)

Journal of Japan Society for Atmospheric Environment 44(4), 202-210.

降水、霧水及び大気中ガス・エアロゾルによる集水域への窒素の負荷と河川水による窒素の流出について、その収支バランスを解析・考察した。調査は粟鹿山(青垣町)で行った。粟鹿山の集水域(流域面積4.28 km2)への降水、霧水及び大気中ガス(HNO3,NH3)・エアロゾル(NO3-,NH4+)による窒素の負荷量はそれぞれ1400, 6700, 230, 160, 27, 290 kgNであった。これは、4.5 kgN/ha/年, 30.2 kgN/ha/年, 1.3 kgN/ha/年, 0.90 kgN/ha/年, 0.15 kgN/ha/年, 1.6 kgN/ha/年に相当するものである。一方、河川水による窒素の流出量は2600 kgNであり 6.1 kgN/ha/年に相当する量であった。粟鹿山集水域における窒素の収支としては、負荷量が38.7 kgN/ha/年であるのに対し、流出量が約 6.1 kgN/ha/年であり、負荷量が流出量の約6.3倍であった。窒素成分に関するこのような研究は欧米では数例みられるものの、アジア地域ではこれまでほとんどないことから、森林域の酸性化からの保護・保全、さらには集水域の富栄養化の観点からも非常に貴重かつ有用な知見を示した結果といえる。

Significant geographic gradients in particulate sulfate over Japan determined from multiple site measurements and a chemical transport model: Impacts of transboundary pollution from the Asian continent

藍川 昌秀,平木 隆年(兵庫県環境研究センター),大原 利眞,向井 人史(国立環境研究所),大石 興弘(福岡県保健環境研究所),山神 真紀子(名古屋市環境科学研究所),村野 健太郎(法政大学)

Atmospheric Environment 44, 381-391

全環研酸性雨部会による第4次調査(平成15年度から平成17年度)のフィルターパック法による乾性沈着調査結果(特にSO2及びSO42-濃度)を解析した。その結果、以下のことが明らかとなった。

・SO2濃度とSO42-濃度は異なった季節変化を示した。SO2濃度は 冬季に、SO42-濃度は夏季に高かった。
・SO42-濃度には経度/緯度勾配が観測されたが、SO2濃度には経度/緯度勾配は観測されず、 SO2濃度は観測地点近傍でのSO2排出量と関連していた。
・SO42-濃度に観測された経度/緯度勾配はモデル計算により良く再現された。
・中緯度東アジア地域においてSO42-濃度は大陸に近い地域ほど高濃度であった。
・モデル計算により、中国寄与のSO42-濃度も上記と同様の特徴が示された。
・日本で観測されるSO42-濃度における、中国寄与率は50-70%であり、中国寄与率は冬季に最大となった。
・日本におけるSO42-濃度は大陸からの移流による影響を受けており、その影響は大陸に近い地域ほど大きかった。

Determination and evaluation of sampling velocity in a simple passive sampling method to monitor HNO3(g) in ambient air

藍川 昌秀,平木 隆年(兵庫県環境研究センター),西川 嘉範(大阪府環境農林水産総合研究所),山神 真紀子(名古屋市環境科学研究所),村野 健太郎(法政大学),向井 人史(国立環境研究所)

Water, Air, and Soil Pollution 208, 183-191

大気中硝酸ガスは、大気中での化学反応に広く関与し、大気科学を考察する上で重要なガス成分である。その一方で、自動分析法は未確立であり、マニュアルによる測定法においてはポンプ等の機材を有する場合が多く、高いコストをかけて分析してきている。全環研酸性雨部会では第3次調査(平成11年度から平成13年度)から大気中硝酸ガス濃度の簡易測定手法について開発及びその汎用性について検討を行ってきた。その結果、以下のことが明らかとなった。
1)今回の開発した簡易測定法においては、サンプリング速度を214 m•day-1と設定することにより、大気中硝酸ガス濃度を測定することが可能であることが明らかとなった。
2)但し、その汎用性を検討した結果、0.39から0.95のバラツキがあることが明らかとなった。
3)今回開発した簡易測定法を全世界的に応用するにあたっては、気象条件(温度・湿度・風速等)が日本とは異なる地点において、さらに汎用性を検討することが必要であると考えられる。
4)しかしながら、本手法は従来の手法に比べ、低コストであることに加え、機材等の取り扱いが極めて容易であることから、今後更に改良を加えることにより、大気科学の調査・研究に多大な貢献をもたらすことが期待できるものである。

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