平成31年(令和元年)度論文

水環境科(水質環境担当)

自治体環境職種エキスパートの目

鈴木元治

環境システム計測制御学会誌, Vol.24(2/3), 116(2019)

 職場と自身の研究内容を紹介し、研究を進めるうえでの分析上の課題とその解決策について提案した。

下水処理場の窒素排出量増加運転が瀬戸内海播磨灘の有機物及び栄養塩の海水中濃度に与える影響評価

鈴木元治,中谷祐介,古賀佑太郎

水環境学会誌 43(2), 43-53 (2020)

 瀬戸内海播磨灘において,貧栄養化対策として実施されている下水処理場の窒素排出量増加運転が,有機物,窒素及びりんの表層海水中濃度に与える影響を評価した。まず,窒素排出量増加運転を実施している二見浄化センターの周辺海域を調査した。その結果,窒素排出量増加運転による有意な水質変化は観測されなかった。つぎに,数値モデルを用いて,兵庫県下20か所の下水処理場が窒素排出量増加運転を実施した場合について解析した。その結果,溶存無機態の窒素及びりんは植物プランクトンに取り込まれ,植物プランクトンが移流拡散することで,灘全体にわたり有機物と窒素濃度が上昇することが推算された。
 観測値には,海水による希釈や他の窒素排出源の影響により,窒素排出量増加運転の影響が確認できなかったと考えられるが,今後,窒素排出量増加運転の実施処理場が増えた場合には,播磨灘の広範囲の水質に影響を及ぼし得ることが示された。

水環境科(安全科学担当)

Persistent organic pollutants are still present in surface marine sediments from the Seto Inland Sea, Japan

Asaoka S., Umehara A., Haga Y., Matsumura C., Yoshiki R., Takeda K.

Marine Pollution Bulletin 149, 110543, 2019

 残留性有機汚染物質(POPs) はストックホルム条約で廃絶・使用が制限されたが,環境残留性 が高く,大気輸送や生物濃縮などによって今日においても世界中で検出されている。本研究では近年堆積した瀬戸内海の表層堆積物を採取し堆積物の残留性農薬濃度を明らかにするとともにそれらの起源を推定した。

国内都市域の水環境中における生活由来化学物質の環境実態解明及び生態リスク評価

西野貴裕, 加藤みか, 宮沢佳隆, 東條俊樹, 市原真紀子, 浅川大地, 松村千里, 羽賀雄紀, 吉識亮介, 長谷川瞳, 宮脇崇, 高橋浩司, 片宗千春, 下間志正

環境化学, Vol. 30, p. 1-20 (2020)

 2016~2018年度の3ヶ年にわたり、環境研究総合推進費「多種・新規化学物質の網羅的モニタリングと地域ネットワークを活用した統合的評価・管理手法の開発」の一環で、国内を代表する大都市の水環境における生活由来化学物質の環境汚染実態や排出源の解明、並びに、それらの物質による水生生物に対する生態リスク評価を実施した。クラリスロマイシン、エリスロマイシンといった抗生物質や抗てんかん剤のカルバマゼピンなど5物質が、水生生物に対する予測無影響濃度(PNEC)を超過する地点があった。下水処理場や医療機関の放流水を分析した結果、これらの施設から生活由来化学物質が排出されていることが分かった。さらに下水処理場における処理性に関しては、オゾン処理を通じて多くの物質が分解されたが、リン酸エステル系難燃剤(PFRs)の中には同処理でも安定しているものもあった。

ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BUVSs)の調査事例と規制の効果

松村 千里,羽賀 雄紀

化学物質と環境 No.159, p.7-9 (2020)

 ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)とベンゾト リアゾール系紫外線吸収剤(BUVSs)の調査事例を報告した。 HBCDは、大気中から比較的高濃度で検出されたが、2014年以降の規制の影響を受けて、その濃度が減少した。BUVSsは、UV-326などが主要な異性体として検出され、UV-320の規制により製品転換が行われていることが示唆された。 また、大気中の異性体分布を把握した。

環境省環境研究総合推進費 終了研究成果報告書 (5-1602) 多種・新規化学物質の網羅的モニタリングと地域ネットワークを活用した統合的評価・管理手法の開発 (3)底質における化学物質の一斉分析法の開発・中部域において脅威となる物質における汚染実態解明

松村 千里,羽賀 雄紀,吉識 亮介

環境省環境研究総合推進費(5-1602)終了研究成果報告書, 57-79 (2019)

 

本研究は、環境省環境研究総合推進費の支援を受け、平成28年度~平成30年度まで、公益財団法人東京都環境公社 東京都環境科学研究所を研究代表機関として全国5つの自治体が共同で実施した。
 当センターはサブテーマ(3)を担当し、網羅分析グループにおいて、底質で優先的に調査すべき化学物質と判断された物質について、高分解GC/MSを用いてターゲット一斉分析を行った。PAHsについては、一部の地点で、2-methylnaphthalene、fluorene、phenanthrene、anthraceneがERL(生物学的悪影響が10%の確率で発生する濃度)を上回ることがわかった。PAHs 以外の物質については、一部の地点で、m-cresol/p-cresol、bis(2-ethylhexyl)phthalate、decamethylcyclopentasiloxane(D5)がPNECsedを超過することがわかった。これらの物質は詳細な調査を行う候補と考えられる。
 PAHsの発生源解析を行ったところ、おおむね、植物/木/石炭の燃焼が原因であることがわかった。

14-(R)-ヒドロキシクラリスロマイシン (対象媒体:水質)

吉識 亮介

平成30年度 化学物質分析法開発調査報告書, p667-699 (2020)

 クラリスロマイシン(CAM)は主に医薬品として使用されるマクロライド系抗生物質で、PPCPsとして環境中への影響が懸念されている。その代謝物である14-(R)-ヒドロキシクラリスロマイシンに関しては環境実態調査の事例がほとんどないのが現状である。本研究において、固相カートリッジを用いた抽出とLC/MS/MSによる測定により、14-(R)-ヒドロキシクラリスロマイシン及びCAMのpptレベルでの同時分析を可能にした。

大気環境科

Influence of marine vessel emissions on the atmospheric PM2.5 in Japan around the congested sea area

Ryohei Nakatsubo, Yoshie Oshita, Masahide Aikawa, Mitsuteru Takimoto, Tomoko Kubo, Chisato Matsumura, Yutaka Takaishi, Takatoshi Hiraki

Science of The Total Environment, Vol702, 134744, 2020

 

近年、日本のPM2.5濃度は全国的に低下傾向だが、瀬戸内海沿岸部等での地域的な高濃度現象が注目されている。本研究では、瀬戸内海沿岸部のPM2.5に及ぼす船舶排出の影響を評価するため、2016年及び2017年に明石海峡周辺の3地点(林崎、垂水、須磨)で採取されたPM2.5の成分測定データを解析し、船舶排出の寄与を求めた。
 重油燃焼から発生するPM2.5中のバナジウム(V)とニッケル(Ni)に着目したところ、本観測地点におけるV濃度は、国内の主要都市部や工業地帯よりも明らかに高く、中国の大規模港弯周辺で観測されたV濃度と同程度であった。また、V/Ni比は、船舶排出の指標とされる範囲(2.5~5)にあり、海風の影響で高くなったため、本観測地点におけるPM2.5中のVとNiは、船舶排出の影響を強く受けていると考えられた。
 Positive Matrix Factorizationにより、PM2.5に対する船舶排出の寄与濃度を推定したところ、2.5 - 2.7 μg m-3 (PM2.5濃度の17.3 - 21.4%)であり、中国からの長距離輸送に次いで高い寄与濃度を示した。そのため、本観測地点では、船舶排出がPM2.5の重要な発生源のひとつである。

Positive Matrix Factorizationモデルを用いたPM2.5の発生源解析―文献調査による解析手法と東アジア地域の現状の整理―

豊永悟史, 中坪良平, 池盛文数, 山神真紀子, 武田麻由子, 土肥正敬, 鈴木晃功, 菅田誠治

環境技術 (2018) Vol.47, No.7, Page.355

 特集「地球温暖化の現状と緩和・適応策の最新動向」について、特集のねらいと各論文の概要をまとめた。

Stronger association between particulate air pollution and pulmonary function among healthy students in fall than in spring

Yoda Yoshiko, Takagi Hiroshi, Wakamatsu Junko, Itoh Takeshi, Ryohei Nakatsubo, Horie Yosuke, Hiraki Takatoshi, Shima Masayuki

Science of The Total Environment, 675, 483-489 (2019)

 これまでの研究では、粒子状大気汚染が健康に及ぼす短期的な影響が報告されている。しかし、それらの研究のほとんどは、健康な青年を対象とした比較的短期間の研究であり、その数はわずかであった。我々は、健康な思春期の青少年を対象に、粒子状大気汚染が肺機能に及ぼす短期的な影響を長期にわたって調査した。瀬戸内海の離島で、2014年から2016年までの春と秋の年2回、それぞれ約1ヶ月間、パネル試験を繰り返し実施した。15~19歳の健康な大学生計48名を対象に、ピーク呼気流量(PEF)と強制呼気量(FEV1)を毎日測定した。直径2.5μm以下の粒子状物質(PM2.5)および2.5~10μmの粒子状物質(PM10-2.5)と黒色炭素(BC)の周囲濃度を連続的に測定した。大気汚染物質と肺機能の関係を調べるために混合効果モデルを用いた。その結果,PM2.5とBC濃度の上昇とPEFとFEV1の低下が有意に関連していることがわかった.最大の減少はFEV1(-1.97%[95%信頼区間(CI):-2.90, -1.04])であり、これはPM2.5の0~72時間平均濃度(14.1μg/m3)の四分位範囲(IQR)の上昇と関連していた。PEFやFEV1はPM10-2.5濃度とは関連していなかった。季節別解析では、秋にはPM2.5, PM10-2.5, BC濃度の上昇に対してPEF, FEV1ともに有意に低下したが、春にはPEF, FEV1ともに低下した。しかし、春には、PEFとFEV1はそれぞれの汚染物質との関連性が弱いことが示された。結論として、健康な青年の間では、周囲の粒子状物質レベルの比較的低い上昇は肺機能の低下と関連していた。この関連性は春よりも秋の方が強かった。

The Characteristics of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons in Different Emission Source Areas in Shenyang, China

Lu Yang, Genki Suzuki, Lulu Zhang, Quanyu Zhou, Xuan Zhang, Wanli Xing, Masayuki Shima, Yoshiko Yoda, Ryohei Nakatsubo, Takatoshi Hiraki, Baijun Sun, Wenhua Fu, Hongye Qi, Kazuichi Hayakawa,Akira Toriba, Ning Tang

International Journal of Environmental Research and Public Health, 16 (16), 2817 (2019)

 2012年から2014年にかけて、中国瀋陽市の3つの異なる地域、SY-1、SY-2、SY-3で粒子状物質(PM)を収集した。SY-1は、中心部から離れた火力発電所のそばに位置していた。SY-2は、中心部に近い幹線道路上の石炭加熱ボイラーの近くにあった。SY-3は幹線道路上にあり、固定排出源がなかった。9種類のPM結合型多環芳香族炭化水素(PAH)を分析した。その結果、全PAHの平均濃度は、暖冬期(18.4-32.2 ng m-3)よりも寒冷期(92.6-316 ng m-3)の方が高かった。暖冬期には全地点で5環状および6環状のPAHが大きな割合を占め、寒冷期には4環状のPAHが支配的な成分であった。いくつかの診断的なPAH比から、温暖期と寒冷期の瀋陽におけるPAHの主な発生源は石炭の燃焼だけでなく、自動車の排気ガスであることが示唆された。本研究では、ベンゾ[a]ピレン/ベンゾ[ギ]ペリレン比([BaP]/[BgPe])0.6は、石炭燃焼と自動車排気ガスの相対的な重要性を推測するのに有用な指標であることを示唆している。瀋陽市政府は大気汚染対策に取り組んでいるが、PMとPAHの濃度は過去の研究と比較して有意には低下していない。温暖期と寒冷期の3サイトすべてのBaP当量合計濃度から算出した発がんリスクは、米国EPAが設定した許容限界値を超えていた。

時間応答性の高い可搬型センサーを用いた局所的なPM2.5高濃度汚染場の調査

板野泰之, 中坪良平, 松見豊

クリーンテクノロジー, 30 (1), 12-15 (2020)

 PM2.5汚染が改善傾向にある中で、小規模な汚染源による局所的な高濃度汚染が注目されつつある。このような汚染は一般大気への影響は小さいものの、個人暴露量に対して無視できない影響を及ぼす可能性がある。本稿では、近年開発された高い時間応答性を持つ小型センサーを用いてその実態を調査した例を紹介する。

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